詩吟の試聴コーナー

春景 与謝蕪村

菜の花や 月は東に 日は西に

通釈

「菜の花畑で、月は東に昇り、日は西に沈んでゆく…(時は夕暮れ。菜の花畑の真ん中を、愛しいあの人のもとへ…)」

やは肌の 与謝野晶子

やは肌の あつき血汐に ふれも見で
さびしからずや 道を説く君

通釈

「私の柔かな肌の下に脈打っている燃えるような熱い情熱に触れもしないで、おさみしくはないのでしょうか?人の道を説いてるあなた。」

武田節(詩吟のみ)

疾(と)きこと風の如く
徐(しず)かなること林の如し
侵掠(しんりゃく)すること火の如く
動かざること山の如し

通釈

風のようにすばやく動き、林のように静かに構え、火の如く激しく攻め奪い、山のようにどっしりと構えて動かない。
  • 民謡調歌曲「武田節」で挿入吟として吟じられる通称「風林火山」。武田信玄が軍旗に書いた『孫子』の一節。

初恋 島崎藤村

まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき 前にさしたる花櫛(はなぐし)の 花ある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて 林檎をわれにあたへしは 薄紅の秋の実に 人こひ初めしはじめなり
わがこゝろなきためいきの その髪の毛にかゝるとき たのしき恋の盃を 君が情に酌みしかな
林檎畑の樹の下に おのづからなる細道は 誰が踏みそめしかたみぞと 問ひたまふこそこひしけれ

通釈

「まだ前髪をあげたばかりの君が、林檎の木の下に見えた時、前髪にさした花櫛が、花のような君だと思わせた。やさしく白い手をのばし、林檎を私にくれた時、薄紅の秋の実が、私に人を初めて好きにさせた。私の思わずでたため息が、君のその髪の毛にかかるとき、たのしい恋の盃を、君の心が酌んだのだ。林檎畑の木の下に、自然とできた細道は、誰が踏んでできたのでしょうかと、わかっていながら聞いてくる君が愛おしい。」