詩吟で吟じる詩歌

詩吟ではどんな詩を吟じてるの?自分では作らないの?ここでは詩吟で吟じられる詩についてご紹介します。

詩吟で吟じる詩とは?

詩吟で吟じる詩は、漢詩が中心で、他には和歌・俳句・新体詩を吟じます。
かつては、詩を自作して吟じていたこともありましたが、現代では、うたい継がれた古典の名詩を吟じるのが一般的です。

七五調の韻文叙情詩

漢詩・和歌・俳句は、言葉数が決まった韻文詩です。七五調(もしくは五七調)といった日本古来の言葉のリズムとテンポを持っています。つまり、日本人にとって、非常にうたいやすいのです。

また、叙情詩とは人間の感情や内面を伝えるもの。一見わからないようなものでも奥が深く、何百年、何千年前に作られたものでも共感できます

詩吟は、美しい言葉の宝庫

日常ではあまり使わないやまとことば古文の名文を、大きな声でまさしく謳歌するのは、とても気持ちのいいものです。

そんな、代々受け継がれた日本語の美しい言葉を声に出して歌えるのが、詩吟最大の魅力の一つです。

詩吟で吟じる詩歌

1. 漢詩

中国古代に生まれた「うた」。一句の字数を定めており、配置する文字の組み合わせなどに制約があります。
詩吟では「五言絶句(五字×四句=20文字)」と「七言絶句(七字×四句=28文字)」の短い漢詩が主に吟じられます。この四句は起承転結で構成されています。

李白杜甫などの中国・唐代の詩人から、上杉謙信武田信玄勝海舟や幕末の志士乃木将軍、夏目漱石ら文学者や歴史上の人物が作った作品を含め、詩吟で吟じる漢詩は300首以上あります。

例)「胡隠君を尋ぬ」/作:高啓(1336~1374)

水を渡り 復(ま)た水を渡り
花を看(み) 還(ま)た花を看る
春風 江上(こうじょう)の路
覚えず 君が家に到る

(起)渡水復渡水
(承)看花還看花
(転)春風江上路
(結)不覚到君家

通釈:
あちらの川を渡り、またこちらの川を渡る。こちらの花を見て、またあちらの花を見る。川沿いの路を春風に吹かれながら歩いていくと、いつの間にか君の家に辿り着いていた。

2. 和歌

日本古代に生まれた「うた」。詩型は五七五七七の31文字からなります。

詩吟で吟じる際は二度くりかえし、最初を序詠、次に本詠として盛り上げます。
百人一首で有名な平安時代の和歌や、石川啄木若山牧水などの近代短歌も詩吟として吟じます。

例)「桜の花の散るをよめる」/作:紀友則(872~945)

ひさかたの
光のどけき
春の日に
静心なく
花の散るらむ

通釈:
日の光がのどかな春の日なのに、桜の花びらはなぜ、あわただしく散るのでしょうか。

3. 俳句

室町時代に連歌からうまれたもの。詩型は五七五の17文字からなります。

詩吟で吟じる際は一句目や後半の二句を二回繰り返します。
詩吟では、俳人として最も有名な松尾芭蕉、与謝蕪村、小林一茶を中心に、江戸から明治の名作を吟じます。

例)「古池や」/作:松尾芭蕉(1644~1694)

古池や 蛙飛び込む 水の音

通釈:
ポチャンと蛙が水に飛び込む音が聞こえた。古池だろうか。静かさは一層深まった……。

4. 新体詩など

明治以降につくられた詩歌で語数が限られていない自由詩のことです。

詩吟では文語体で七五調のものを中心に、伝統的な音階や節回しを応用して吟じます。

島崎藤村の「初恋」や三好達治の「甃のうへ」、土井晩翠の「星落秋風五丈原」など、有名な新体詩が詩吟で吟じられます。

例)「初恋」/作:島崎藤村(1872~1943)

まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり

やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり

わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃を
君が情に酌みしかな

林檎畑の樹の下に
おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ

通釈:
まだ前髪をあげたばかりの君が、林檎の木の下に見えた時、前髪にさした花櫛が、花のような君だと思わせた。やさしく白い手をのばし、林檎を私にくれた時、薄紅の秋の実が、私に人を初めて好きにさせた。私の思わずでたため息が、君のその髪の毛にかかるとき、たのしい恋の盃を、君の心が酌んだのだ。林檎畑の木の下に、自然とできた細道は、誰が踏んでできたのでしょうかと、わかっていながら聞いてくる君が愛おしい。