能楽師・安田登先生の寺子屋に行ってきた

2014.10.27

安田先生が面白い

今日は、能楽師の安田登先生が開催している「寺子屋」に参加してきました。広尾の東江寺で不定期に開かれていて、お賽銭スタイルでいろいろ学べるというものです。

安田先生は面白い本をたくさん出版されてます。最近では『身体感覚で芭蕉を読みなおす』『あわいの力』『肝をゆるめる身体作法』『日本人の身体』など、詩吟をやっている自分としては、タイトルだけでも震え上がるようなものばかり。

安田先生を知ったのは、拙著『詩吟女子』を出版した春秋社の編集者さんに、始めてお会いしたときに教えてもらったのがきっかけです。それから猛烈に影響を受けています。

噂によると、座禅をやったり、甲骨文字を読んだりすると聞いていて、正直かなりビビっていました。行く前からやたら緊張していて、逃げ出したくなるようでした。けれど、詩吟教室の体験レッスンに来てくれる方もこんな感じなのかなあと思いつつ、勉強勉強と自分を奮い立たせ、広尾の秋風に吹かれるようにして会場に飛び込みました。

感動しすぎた

結果を先に言いますと、帰り道、感動しすぎて吐きそうで、電車を待っているホームで不覚にも嗚咽、放心状態が帰宅まで続き、今これを書きながらやっと正気に戻ってきたという感じです。

今回の「寺子屋」の内容はというと、ゲストの狂言師・奥津先生と一緒に、能の『自然居士』という演目の一部を聞いたり、実際に参加者みんなで声に出して謡ってみたりしました。とにかく最初から最後まで面白くて、あっという間の2時間でした。

音楽的なことや、身体的なこと、古典のこと、能面のこと、小学校をまわっての授業のこと、歴史的なこと、根本的な理解、学びの楽しさなど、多角的であって凝縮されている。そして、兎にも角にも楽しそうにやっていらっしゃいました。

何より感動したのは、安田先生の圧倒的な声。

どう考えても、今まで聞いたことのないくらい凄い声を出されるのです。

大人から始めた伝統芸能

私が安田先生を凄いと感じる理由の1つに、「先生が能を、子供の頃からやっていたというわけではない」ということなんです。つまり、大人になってから始めたわけです。

でも、「安田先生の声は圧倒的に凄い」と能シロウトの私でも思います。

よく伝統もの、詩吟でも「こどもの頃からやってると違いますよね〜」という声を聞きますが、そんなことないんです。詩吟が上手な方も、大人から始めた人は多いです。だから、今から詩吟なり、伝統芸能なりを始めても全然遅くないんです。

そして、もっと面白いのが、安田先生が能を始めたきっかけです。

ご本人のお話しによると「能というあまりに眠いエンターテイメントが600年も続いたのが何故か」という疑問で始めたとか。

これ、非常によくわかります。詩吟も眠いときがあるんです。でもそういうことを言っちゃまずいよな……、と思っていたのですが、退屈の一言では済まされない秘密が隠されているのです(安田先生の考察は理知的で神秘的です。詳しくはご著書を読んでみてください)。

能とはまた違いますが、「なぜ詩吟が眠いのに、じわじわ続いているのか」について、ずっと考えています。

詩吟の本当の魅力とは何か。

健康にいいとか、声が通るようになる、というのももちろんありますが、そんなことよりも断然得るものがある。

それは何か?

ある種の”つながり”のようなものである。

つながりについて

詩吟を吟じていると、たった一人で誰に聞いてもらっているわけでもないのに、孤独感や不安感がスーッとなくなっていることがあります。非常に大きな何かとつながっているような感じです。

何とも不思議な感覚なのですが、力がみなぎるような爽快感さえあります。幕末の志士や、有事のときに詩吟が流行った意味が少しだけわかるような気がしてきます。

能が武士の必須科目だと知ったのも安田先生のご著書からです。腹から声を出すことは、気合いと冷静さを兼ね備えることができる。

詩吟もきっと謡いの影響を、多少なりとも受けているんだと思います。