今日、本当に嬉しかった話 〜 私がナチュラル詩吟教室を始めた理由
快気祝いに吟じたい詩
ある50代の生徒さんから、「今度身内の快気祝いがあるから、それに合う詩吟はありますか?」というリクエストをいただきました。
うーんと考えた末、荻生徂徠の漢詩『還館口号(かんかんこうごう)』がいいのでは、ということで稽古をしていました。
この詩のサビの部分では、
須(すべから)く識(し)るべし良宵(りょうしょう)
天下(てんか)に少(まれ)なるを
とあります。
「こんな良い夜は、この世にめったにあるものではない」
という意味です。
背景には、美味しい葡萄酒を飲んで、富士山にはお月様がかかっている、という状況です。「今夜は最高!」といった明るい気に満ちていて、場の雰囲気を盛り上げてくれる詩、と私は思っています。
生徒さんからのメール
今日、その生徒さんからメールをいただきました。
内容はというと、快気祝いの前に、学生時代の同級生たちと久しぶりの飲み会があって、終盤にこの詩を吟じたとのこと。
それが思った以上に喜ばれたそうなのです。
「年齢的、状況的にまさに小津安二郎監督の映画『彼岸花』の笠智衆たちに酷似しており、リラックスして(かなり飲んだ後だったせいもあって)、笠智衆のように吟じることができ、終わった後は、涙が出そうな気持になりました」
(※映画の終盤で、笠智衆が同窓会で詩吟を吟ずる名シーンがあります【上記写真】)
そして、「同窓会が、詩吟必須の飲み会になりそうです」とのこと。
私はこのメールを自宅でよんで、パソコンの前で一人、微笑んでしまいました。と同時に、本当に嬉しい、胸が熱くなるような、何とも言えない気持ちになりました。
詩吟教室を始めた理由
その時、自分が詩吟教室を始めたきっかけについて、すっかり忘れてしまっていたのを思い出し、ハッとしました。
今から5〜6年前のことです。今まで何十年も詩吟の会の中でしかほとんど吟じてこなかった私が、大人になってから、詩の意味を理解し、友人の送別会で、とても大切な友人たちの前で、その状況にふさわしい詩を吟じたときでした。
本当にびっくりするくらい喜ばれて、今まで感じたことのない、最高に幸せな気分になりました。
そのとき、本当の意味で初めて、詩吟の素晴らしさを噛みしめました。「この素晴らしさをもっと多くの人に伝えたい」と若輩者で浅はかながらも確信し、ナチュラル詩吟教室を立ち上げ、今に至ります。
そういうわけで、常々生徒さんたちには、「出来の良し悪しに関わらず、ご家族やご友人に聞いてもらってくださいね」と言っています。
とは言え、なかなか勇気のいることなんです。でも、それをこの生徒さんは勇気をもってやってくれました。だから本当に嬉しかった。
日本語の美しさとは
今、ちょうど読んでいた本にこうありました。
「美しい日本語などという概念は、美しい人間関係があって、初めて可能なものだ。」
(『地図を創る旅』/平田オリザ)
だからこそ、大切な人の前や、意を同じくした人の前で吟じてみる。そこで、はじめて、日本語の美しさに直面する。その心の通い方こそが、日本らしさなのかもしれません。