新国立劇場『斬られの仙太』にて俳優・小泉将臣氏に詩吟指導

2021.04.17

2021年4月6日〜4月24日、新国立劇場で行われた舞台『斬られの仙太』に出演の、俳優・小泉将臣さんに詩吟指導を行いました。

『斬られの仙太』とは

『斬られの仙太』とは、劇作家・三好十郎による、幕末から明治にかけての激動期を描いた約4時間の超大作。初演は1934年。仲代達矢主演で映画化もされています。

今回は新国立劇場主催で、有名無名問わず、オーディションを経た実力派の16名の俳優が、約80名の登場人物を演じました。

『斬られの仙太』に登場する詩吟

劇中で、重要な役どころである水戸藩士・加多源次郎(役:小泉将臣さん)が詩吟を吟じるシーンがあります。

杜甫の長詩「兵車行」の一部分です。凶作や兵役に苦しむ農民の嘆きを詠ったこの詩は、劇中の凶作と年貢に苦しむ主人公たちの現状を、まさに表現しています。

君聞かずや 漢家山東(かんかさんとう)の二百州(にひゃくしゅう)
千村万落(せんそんまんらく) 荊杞(けいき)を生ずるを
縦(たと)ひ健婦(けんぷ)の 鋤犂(じょれい)を把(と)る有るも
禾(か)は隴畝(ろうほ)に生じて 東西(とうざい)無し

意訳:「君は聞いているだろう。漢の山東地方の二百州は、どこも荒れ果て茨(いばら)が茂っている。たとえ気丈な婦人が鋤(すき)や鍬(くわ)を取っても、稲は田畑のあぜ道に生え、東も西も分からないほどなのだ。」

怒濤の詩吟指導

この度ご縁があって、この劇中で吟じられる詩吟の指導をさせていただきました。

とは言え、詩吟の稽古を始めたのは本番約1ヵ月前。役者さんは全くの詩吟素人さん。

さて、どうしたものか!? 悩みに悩み考えました。

この物語の背景となる江戸末期は、詩吟が大いに盛り上がる時代です。時事を憂い、自らを励ますために、悲憤慷慨の漢詩が吟じられました。特に水戸藩士・藤田東湖の「文天祥正気の歌に和す」(南宋の文天祥という忠臣がうたった「正気の歌」に寄せて作ったもの)は、維新の志士がこぞって吟じ、尊王攘夷思想を広め、鼓舞したと言われています。

つまり、この時代の詩吟は、現代の詩吟とはだいぶ違っていて、いかに上手に吟じるか、というよりは、思想や情熱を表現するためのものだったのです。

劇中の水戸藩士・加多さんは、杜甫の詩に現状を重ねて、その詩吟を吟じることで憂い、自らを鼓舞していた……。

そこで、「加多さんの情熱と役者さんのポテンシャルを詩吟にぶつける作戦」で、攘夷志士の詩吟を表現することにし、約1ヵ月という短期間で猛特訓を行いました。

結果、、、

めちゃくちゃかっこよかったです!!!!

劇の素晴らしい演出や演技、衣装や音楽が相まって、普段の詩吟では観ることのできない、まるで本当の歴史上の詩吟を観たように感じました。

舞台作品と詩吟

小泉さんは膨大なセリフがあるにも関わらず、初めての詩吟を本当に熱心に稽古され、それを見事に役に落とし込み、仕上げておられ、心から感動しました。

プロの役者さんにしかああいう詩吟はできないな……という、とんでもない迫力でした。詩吟の魅力である、地声や抑揚、情熱が非常に舞台役者さんの発声にマッチしていたと思います。

かねてより「舞台俳優さんが詩吟をやったら絶対かっこいいし、維新の志士役の詩吟があったらいいのに!」と妄想していたので、このお話しをいただいた時には、ついに夢が叶った!と、跳ね上がるほど嬉しかったです。

コロナの影響で開演できるかも不安というなか、本番を観るまではかなりドキドキでしたが、詩吟も含め、最高に面白い舞台作品でした。

公演&テレビ放映情報

斬られの仙太
日時:2021年4月6日(火)〜4月24日(日)(4月25日[日]公演は中止になりました)
会場:新国立劇場 小劇場
予定上演時間:4時間20分(休憩2回含む)
料金:A席7,700円 B席3,300円 Z席1,650円(税込)

<放送番組名> 
NHK BSプレミアム「プレミアムステージ」

<放送予定日>
2021年6月6日(日)午後11:20~翌4:23
※番組内2本立てのうち前半

2020/2021シーズン
演劇「斬られの仙太」

作:三好十郎

演出:上村聡史

出演:青山 勝 浅野令子 今國雅彦 内田健介 木下政治 久保貫太郎 小泉将臣 小林大介 佐藤祐基 瀬口寛之 伊達 暁 中山義紘 原 愛絵 原川浩明 陽月 華 山森大輔

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