【動画】詩吟「おくのほそ道より”平泉”」松尾芭蕉

2015.05.16

「おくのほそ道より”平泉”」松尾芭蕉

三代の栄耀一睡の中にして、
大門の跡は一里こなたにあり。
秀衡(ひでひら)が跡は田野になりて、
金鶏山(きんけいざん)のみ形を残す。

まづ高館(たかだち)に登れば、北上川
南部より流るる大河なり。
衣川は和泉が城を巡りて、
高館の下にて大河に落ち入る。

泰衡(やすひら)らが旧跡は、衣が関を隔てて
南部口をさし固め、夷(えぞ)を防ぐと見えたり。
さても義臣(ぎしん)すぐつてこの城にこもり、
功名一時の叢(くさむら)となる。

国破れて山河あり、
城春にして草青みたり。
笠うち敷きて時の移るまで
涙を落とし侍りぬ。

夏草や兵どもが夢の跡

意味

藤原三代の栄華も一睡のうちの夢であり、平泉館の南大門の跡は一里も彼方にあって、その建物の大きさがしのばれる。秀衡の館の跡は田野になり、金鶏山だけが形を残している。

まず義経の住んでいた高館にのぼれば、南部領から流れてくる大河の北上川が望まれる。衣川は忠衡の館の和泉が城をめぐって、高館の下で大河に落ち入る。

泰衡の旧跡は、衣が関を隔てた遠くにあって北の関門である南部口をしっかりと固め、蝦夷の襲撃を防いだ、と見える。さても義経は忠義の家臣を選りすぐってこの城にこもり、たくさんの功名もはかなく消えて、今は茫漠としたくさむらになっている。

「国破れて山河あり、城春にして草青みたり」と杜甫の詩を思い、笠を敷いて腰をおろし、時の過ぎゆくままに泪を流したことであった。

義経や弁慶や多くの英雄がこの高館にこもって戦い、功名をたてようとしたことも夢となってしまった。

今は夏草が茫々と生い繁っているばかりである。栄枯盛衰は一瞬の夢である。

    (※参考文献:『すらすら読める奥の細道』立松和平)

「平泉」について

最も有名な俳句の一つである「夏草や兵どもが夢の跡」が最後に登場する、松尾芭蕉の『おくのほそ道』の一篇「平泉」です。芭蕉が旅の目的地であった平泉を訪れた際に詠まれたものです。

私はこの「平泉」が大好きで、思い立って、真夏の暑い日に岩手県平泉に行ってきました。本当に平泉には何もなくて、草がぼーぼーに生い茂っており、「こういうことか……!」と妙にわかったような気になりました。

詩吟の楽しみの一つは、詩の詠まれた土地に行けるということです。「平泉に行ったらその場で吟じたい!」と思っていたのですが、呆然として吟じるのを忘れてしまいました(笑)。

上記動画は、「かわさきアジア交流音楽祭2015」で演奏したものです。一般の方に聞いていただきやすくするため、琵琶ギターで伴奏をつけています。(※「平泉」は拙著『詩吟女子』にも収録されています)

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