【動画】詩吟「初恋」島崎藤村
2021.08.19
「初恋」島崎藤村
まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛(はなぐし)の
花ある君と思ひけり
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛(はなぐし)の
花ある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり
わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃を
君が情に酌みしかな
林檎畑の樹の下に
おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ
意味
まだ前髪をあげたばかりの君が、林檎の木の下に見えた時、前髪にさした花櫛が、花のような君だと思わせた。やさしく白い手をのばし、林檎を私にくれた時、薄紅の秋の実が、私に人を初めて好きにさせた。私の思わずでたため息が、君のその髪の毛にかかるとき、たのしい恋の盃を、君の心が酌んだのだ。林檎畑の木の下に、自然とできた細道は、誰が踏んでできたのでしょうかと、わかっていながら聞いてくる君が愛おしい。
「初恋」について
明治期の詩人、小説家・島崎藤村(1872-1943)による、有名な新体詩です。
この詩は、藤村が25歳の時に出版した『若菜集』に収められたものです。初恋の初々しさを、林檎とともに美しい言葉で描いています。
詩吟といえば漢詩が主なので、新体詩は珍しいかもしれません。しかし、節回しは漢詩のもので、七五調のリズムが心地よく、自然に吟じることができます。
漢詩の品格やリズムを引き継ぎながら、現代人の心を震わせるこの詩を、ぜひ吟じてみてください!
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