【動画】詩吟「甃のうへ」三好達治
「甃のうへ」三好達治
をみなごに花びらながれ
をみなごしめやかに語らひあゆみ
うららかの跫音(あしおと)空にながれ
をりふしに瞳(ひとみ)をあげて
翳(かげ)りなきみ寺の春をすぎゆくなり
み寺の甍(いらか)みどりにうるほひ
廂々(ひさしひさし)に
風鐸(ふうたく)のすがたしづかなれば
ひとりなる
わが身の影をあゆまする甃(いし)のうへ
意味
ああ、花びらがながれ、乙女たちに花びらがながれ、乙女たちはしめやかに語らい歩み、うららかな空にその足音が響き、ときたま瞳をあげて、変わりない寺の春は過ぎていった。
寺のかわぶき屋根は緑に濡れ、ひさしには鐘が静かに吊り下がり、私はひとり、自分の道を進んでいく、この石畳の上を。
「甃のうへ」について
明治期の詩人、文芸評論家の三好達治(1900-1964)による、最も有名な新体詩の一つです。彼が20代に書いたもので、語感の美しさ、みずみずしさが、詠む人の心に潤いを与えます。
私がこの詩に出会ったのは10〜20代です。詩吟で吟じるのは漢詩が一般的ですが、自分が未熟でなかなか理解に至りませんでした。しかし、この詩に出会って、深く共感し、心の底から感動し、詩吟が何倍も楽しくなりました。
「一般的には知られていないけれど、こういうかっこいい詩吟もあるんだ」ということを、特に若い人や詩吟を知らない人、また詩吟をやってきたけど、ほとんど漢詩しかやってこなかった、という方に伝えたいです。
上記動画は、「かわさきアジア交流音楽祭2015」で演奏したものです。一般の方に聞いていただきやすくするため、琵琶ギターで伴奏をつけています。(※「甃のうへ」は拙著『詩吟女子』にも収録されています)
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